ひきざんトートロジーとは ひきざんトートロジーである

 私は忘れない。あの日、あの場所、星空の下で彼女と語り合ったあの夜を。

 これは、私と彼女と ひきざんトートロジーの話だ。


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 夜中の9時、車も止まってないコインパーキングの端に私と彼女はいた。花の女子高生がこんな夜に出歩いて、お巡りさんや酔っ払いに絡まれでもしたら大変だと思っていたのに、彼女に会えた喜びで吹き飛んだ。我ながら現金なものだ。そんな彼女は挨拶もそこそこに、楽しそうに、本当に楽しそうにこう宣告したのである。

「ひきざんトートロジーの話をしましょう!」

 いやいやいや、彼女と会うのは小学生以来だ。積もる話もあるだろうに、いきなりコレである。面食らうなというほうが無理だ。率直な疑問を返すので精一杯である。

「ひきざんトートロジーって何?」
「ひきざんトートロジーとはひきざんトートロジーよ」

 なんだそのドヤ顔は。答えになってねぇよ。むかつくなー、美人はドヤ顔も様になるのはむかつくなー。

「拗ねないの。あのね、ひきざんトートロジーっていうweb漫画の話なんだけどね」

「だったら最初からそう言えや」

 しかし数年来の再会の喜びもそっちのけで語りたいほどなのか。そうなのか。普通に凹むわ。

「そんなに面白いの?」

「面白いね。面白い通り越してもはや世界だねアレは。百合という名の小宇宙と言っても過言ではない」

「絶対言い過ぎでしょ。知らんけど」

 というか百合なんだ。百合とか読んじゃうんだ。ふーん。ほーう。私だって結構百合漫画は好きなほうだ。なんだか少し興味でてきたな。

「どんな話なの?」

「よくぞ聞いてくれました! あのね、主人公の平塚水面ちゃんはクラスでも目立たない子で、入学してから色々あったせいで女子が怖くなって、同性の友達を作らないように避けて高校生活を送ってるんだけどね」

・平塚水面
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「なんか分かるわ。女の子ってめんどくさいよね。……めんどくせーよ」
 陰口やら同調圧力やら嫌になる時だってある。いっそ全部投げ出したくもなるけれど、それをしたらクラスで孤立してしまうのは目に見えている。私はその選択を選べるほど強くはない。だから、きっとこの水面ちゃんは強いんだろうな、って思う。

「対してヒロインが綾瀬優里香ちゃん。この子はね、女子カーストで言えば水面ちゃんと真逆の天上人。一見クールで怖いイメージあるんだけど、でもでもでも実際は優しくて天然で誠実ですんごい良い子なのよ! この二人がある事がきっかけで仲良くなっていくというね。そういうお話」

・綾瀬優里香
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「ああ、なんだかTHE 百合の王道って感じだね」

「は? いまなんつった? 違う違うねわかってないね! お前はまだひきざんトートロジーを1ミリも理解してないわね!」

「あっはい。そりゃまだ読んでさえいませんし……」

 なんでキレてんだよ地雷すぎるわ。ていうかお前呼ばわりされたのちょっとショックなんですけどー?

「いい? ひきざんトートロジーの素晴らしい所の一つは『家族』の在り方を描いている所なのよ! 例えば水面ちゃんには双子の妹で月江ちゃんっているんだけど、姉とは感情のすれ違いでギスギスしがち。でも本当は姉のことを大切に思ってる! 互いを思い合うからこそ言いたいことを言い出せないで険悪になってしまうという悪循環!」

・平塚月江
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ツンデレシスコンじゃん(好き)」

「左様。水面も優里香も周りの人間にも家族がいて、優しさや思い遣りや孤独や不理解や貧富やらでどうにも上手くいかなくて、そんな中で彼女達は等身大で問題に立ち向かったり無力感に苛まれたり流されたり踏み止まったりする。もうね、読んでて心臓が抉られるような痛みを伴うよ。マジで。でもしかしその抉られてポッカリ空いた我が胸に、気付けば百合が一滴一滴と満たされて溢れてくる! これぞ百合侵略や!!」

「めっちゃ語るやん。そこまで言うなら今日帰ってから読んでみようかな。あ、でも単行本でてるんだったらそっち読みたいかな。私現物派だから」

「ぐっ……! 悔しながら2020/11/16現在、ひきざんトートロジーは単行本化されていない。いやしかし! いやしかし! だがしかし! 仮に単行本が出ていたとしてもだ。その場合は買え! なまら買え! そして私はこう言おう。webで読め、と!!
何故か? つまり、ひきざんトートロジーはweb漫画として完成されまくっているのよ!
コマ割りは基本同じ大きさで、最初に読み始めたら多分みんなこう思うんじゃないかしら? 『ああ四コマ漫画か』ってね。ふふふ、でも五コマ目に到達した時点ですべからく悟るであろう。同じ大きさのコマが一話の終わりまで延々と続く。これはそういうスタイルなのだと!」

「確かにスマホで読むなら最高に読みやすそう。でも話を聞く限り心理描写とか繊細そうなイメージなんだけど、それを無限四コマ(勝手に命名)で描写できるもんなの?」

「そこはもう作者の柾塚ちい先生の"技"が光るトコね。限られたコマ割りだからこそ生きる表現が随所に散りばめられているわ。これによってひきざんトートロジーは文学に成ったと言っても過言じゃないわ!」

「いや漫画でしょ? ねえさっきから大丈夫?」


・空コマで場面転換等を表現。空コマを贅沢に使えるのもweb漫画ならではか
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・一枚絵をコマで分割。これが心臓にクるんだ
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・大胆なブチ抜き大ゴマ。割とレアなのでありがたさが凄い。映える
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「私なら大丈夫。そしてひきざんトートロジーは様々な漫画アプリやサイトで連載されているわ。あくまで私の独断と偏見だけど、いくつか見た限り百合ナビ(http://yurinavi.com/yurinavimanga-hikito/)か作者のホームページ(http://complex1105.web.fc2.com/youkoso.html)だと話の終わりにちょっとしたあとがきがあるからオススメね。
作者HPより百合ナビのほうがUIが分かりやすいけど、反面百合ナビは漫画の途中に広告が挟まれたりするから、そのへんはお好みでどうぞ」

「へぇ。でも本編の内容はどれも変わらないんでしょう? ジャンプ+なら私アプリあるからそれで読もうかな」

「その場合は『ジャンプルーキー』のほうで探してね。ジャンプ+アプリにも掲載はされているんだけど、現状なぜか12話で更新が止まっているわ。私も最初はジャンプ+のアプリで読んでたせいで最新話が何十話も更新されているのも気付かずにずっとずっと待ち続けてしまった。はっ、とんだピエロだぜ!」

「お、おう。まあいろいろとありがとう。おかげで心置きなくひきざんトートロジーを読むことが出来そうよ」

「こちらこそ、久しぶりに会ったっていうのに全然関係ない話しちゃって。学校じゃこんな話しても貴女みたいにツッコミながら聞いてくれる人いなくて」

「自覚あったんかい!? はは。じゃあ次はもっと女子らしいガールズトークしましょうか。えっと」

 これは大変だぞ。言ったはいいが話題が浮かばないぞ。困ったなぁ。どうしようかと空を見上げてみたら、彼女もつられて上を見てそして。

「「今夜は月が綺麗ですね」」

 揃って同じ台詞を言った。なんだかおかしくて顔を見合わせて笑った。
 何年も会ってなかった期間なんて話題から引き算して、そして私達は同じになれたんだ。あの頃と同じ、親友であり親友である関係に。








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